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福岡地方裁判所 平成7年(ワ)4369号 判決 1997年6月11日

原告

南海辰村建設株式会社

(合併前の商号株式会社辰村組)

右代表者代表取締役

芝谷昭

右訴訟代理人弁護士

髙橋紀勝

土井隆

被告

協同住宅ローン株式会社

右代表者代表取締役

赤羽昭二

右訴訟代理人弁護士

羽田忠義

沢野忠

中村壽人

清水徹

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  福岡地方裁判所平成四年(ヌ)第四一号不動産強制競売事件及び同裁判所平成五年(ヌ)第二二一号不動産強制競売事件について、同裁判所が作成した別紙配当表のうち、被告に対する配当額四九〇八万四九八六円とある部分を〇円に、原告に対する配当額二二二三万三二八八円とある部分を七一三一万八二七四円に、それぞれ変更する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  配当事件

(一) 訴外破産者平成建設株式会社(以下「破産者」という。)の破産管財人岩本洋一は、福岡地方裁判所に対し、破産者所有の別紙物件目録記載一の土地(以下「本件土地」という。)につき、破産法二〇三条の規定に基づく強制競売の申立てをし、平成四年(ヌ)第四一号事件として係属した。

(二) 右破産管財人岩本洋一は、福岡地方裁判所に対し、破産者所有の別紙物件目録記載二の建物(以下「本件建物」という。)につき、破産法二〇二条の規定に基づく強制競売の申立てをし、平成五年(ヌ)第二二一号事件として係属した。

(三) 本件土地及び建物は一括競売され、代金納付に基づき平成七年一二月二〇日に配当期日が開かれた。

2  配当表の内容

右1(三)の配当期日において作成された別紙配当表(以下「本件配当表」という。)には、本件土地及び建物の売却代金のうち手続費用を除いた残額七一三一万八二七四円について、四九〇八万四九八六円を被告に、二二二三万三二八八円を原告に配当する旨記載されている。

3  被担保債権及び本件商事留置権の成立

(一) 共に株式会社である原告と破産者は、平成二年一二月一七日、営業のために次のとおり建物建築請負契約(以下「本件建物建築請負契約」という。)を締結し、原告は直ちにその工事場所である本件土地の引渡しを受け、仮囲い資材をもって本件土地を仮囲いし、原告名を表示した看板を設置して占有を開始し、本件建物の新築工事に着手した。

工事名 春日平成館新築工事

工事場所 本件土地

請負代金 二億一一一五万円

支払方法

契約成立時 二〇五〇万円(現金)

二〇五〇万円

(約束手形九〇日)

上棟時 二〇五〇万円(現金)

二〇五〇万円

(約束手形九〇日)

完成引渡時 六四五〇万円(現金)

六四六五万円

(約束手形九〇日)

破産者は、平成三年七月一一日に破産宣告を受けたものであるが、原告は、同年六月一三日までに一億〇七六八万六五〇〇円の工事出来高を施工し、未完成ながら本件建物を建築した。右破産宣告以後、原告は、本件土地に青塗りトタン塀を立て巡らし、本件建物内には現場事務所を設けてこれらを占有管理していた。

原告は、破産者より契約成立時払いの四一〇〇万円の支払を受けただけで、上棟時払いの四一〇〇万円の支払を受けていない。さらに、破産管財人岩本洋一が原告に対し、平成三年八月二八日、本件建物建築請負契約を解除する旨の意思表示をしたことにより、右完成引渡時払いに対応する出来高についても弁済期が到来した。

したがって、原告は、破産者に対し、本件建物建築請負契約に基づき、差引六六六八万六五〇〇円の請負残代金支払請求権を有する。

(二) 原告と破産者は、平成三年二月二八日、営業のために次のとおり宅地造成工事の請負契約(以下「本件宅地造成請負契約」という。)を締結し、原告は直ちに工事場所である大野城市旭ヶ丘一丁目八四一番地二外六筆の土地(以下「本件造成土地」という。)の引渡しを受けて着工し、同年五月末日ころまでに同工事の施工を完了した。

工事名 大野城市旭ヶ丘造成工事

工事場所 本件造成土地

請負代金 八五四万九〇〇〇円

支払方法

平成三年三月一三日 二五〇万円

完成時 六〇四万九〇〇〇円

しかし、原告は、破産者から右請負代金の内金二五〇万円の支払を受けただけで、残額六〇四万九〇〇〇円の支払を受けなかった。

(三) 原告は破産者に対し、本件宅地造成請負契約に基づく工事残代金六〇四万九〇〇〇円の支払請求権及び本件建物建築請負契約に基づく工事残代金六六六八万六五〇〇円の支払請求権並びにこれらに対する損害金一一八四万五七一六円の合計八四五八万一二一六円の債権(以下「本件債権」という。)を有する。

商法五二一条による商人間の留置権(以下、本件においては単に「商事留置権」という。)には被担保債権と占有目的物との牽連関係は不要であるから、原告には、本件債権全体を被担保債権として、本件土地及び建物についての商事留置権(以下「本件商事留置権」という。)が成立し、原告は右商事留置権に基づいて、本件土地及び建物を占有している。

4  配当異議の申出

原告は、本件競売事件にかかる平成七年一二月二〇日午前九時三〇分の配当期日において、本件商事留置権を主張して、被告に対する配当額の全部を取り消し、これを原告の配当額に加えるべき旨異議を申し出た。

5  本件土地利用権(右4の異議が認められない場合の仮定的主張)

原告には本件建物に対する商事留置権が成立し、その実効を確保するためには右建物の敷地である本件土地を間接占有することができるのであるから、原告に配当されるべき本件建物の価格評価については単なる建物価格だけでなく、その敷地利用権(法定地上権又は使用貸借権)の価格を評価して加算されるべきである。

6  よって、原告は、福岡地方裁判所平成四年(ヌ)第四一号不動産強制競売事件及び同裁判所平成五年(ヌ)第二二一号不動産強制競売事件について、同裁判所が作成した本件配当表のうち、被告に対する配当額四九〇八万四九八六円とある部分を〇円に、原告に対する配当額二二二三万三二八八円とある部分を七一三一万八二七四円にそれぞれ変更する旨の判決を求め、右が認められない場合は、被告に対する配当額から本件建物のための本件土地の利用権価格を控除し、原告に対する配当額に右利用権価格を加えるよう変更する旨の判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の各事実はいずれも認める。

2  同3(一)のうち、破産管財人岩本洋一が原告に対し、平成三年八月二八日、本件建物建築請負契約を解除する旨の意思表示をしたことは認め、その余の事実並びに(二)及び(三)の各事実は知らない。

3  同4の事実は認める。

4  同5の主張は争う。

三  被告の主張

1  原告の本件土地に対する占有

本件建物の所有権は破産者にあり、原告には本件建物を所有することによる本件土地の占有は存在しない。

他方、建築業者に認められる敷地の使用権原は、建築工事施工のために必要な敷地の利用が限度であって、かような利用による占有は留置権成立の根拠となり得ない。本件土地に対する原告の占有は工事施工のために必要な利用を超えており、右占有が留置権成立の根拠となり得ないのは当然である。

2  債務者が破産した場合の留置権の効力

被告は、破産者に対し、平成二年一一月二日、本件土地購入資金として一億円を貸し付け、右貸金債権を担保するため本件土地に別紙抵当権目録記載の抵当権(以下「本件抵当権」という。)を設定しており、右抵当権の設定登記は同日経由された。

仮に原告に本件商事留置権が成立していたとしても、債務者である破産者が破産宣告を受けている本件においては、本件商事留置権は破産法九三条にいう特別の先取特権に転化しており、右特別の先取特権は本件抵当権に劣後するから、原告は被告に対し自己の商事留置権を主張することはできない。

3  本件土地利用権

本件抵当権設定当時、本件土地上に本件建物は存在せず、被告は本件土地を更地として評価し、右抵当権を設定したのであるから、本件土地につき、本件建物のための法定地上権は成立しない。

また、本件建物のために本件土地の使用貸借権が成立する事情は存在しない。

四  被告の主張に対する認否

被告の各主張をいずれも争う。

第三  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるから、これらの各記載を引用する。

理由

一  争いのない事実

請求原因1、2及び4の各事実並びに同3(一)のうち、破産管財人岩本洋一が原告に対し、平成三年八月二八日、本件建物建築請負契約を解除する旨の意思表示をした事実については当事者間に争いがない。

二  請求原因3及び被告の主張2について

証拠(甲一、二、三の1ないし4、六ないし一一、証人前畠一義、同山崎芳秋)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

1  本件建物建築請負契約の締結と請負代金の一部弁済

原告は建築請負等を、破産者は一般建築請負及び設計施工並びに販売に関する事業等をそれぞれ目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)ところ、右原告と破産者は、平成二年一二月一七日、営業のために本件建物建築請負契約を締結し(甲一)、破産者は、原告に対し、請負代金のうち契約成立時払いの四一〇〇万円について支払をなした(甲二)。

2  原告による本件建物及び土地の占有状況

原告は、平成二年一二月一七日、起工式を行った後、杭工事終了後の基礎工事段階においては本件土地の周囲に鉄パイプによる仮囲いを施し、外側を社名入りのシートで囲っており、基礎工事が完了して躯体工事の段階に入った後は、枠組足場の外側をメッシュシートで覆ったうえ、本件土地の周囲を社名入りのバリケードで仮囲いし、右バリケードに立入禁止の札を掛けて現場を保全していた(甲三の1、2、六、証人前畠一義)。

原告は、同三年六月一日ころ、コンクリート躯体工事を完了させて本件建物を上棟した(甲六、証人前畠一義)。

3  破産者の倒産・破産宣告と弁済期の到来

原告は、平成三年六月八日ころ、破産者が倒産しそうだとの話を聞いたために出来高査定を行い、破産者との間で、同月一三日、出来高金額が一億〇七六八万六五〇〇円であること、及び、既払分の四一〇〇万円を差し引いた六六六八万六五〇〇円が残高であることをそれぞれ確認した(甲二、七)。

破産者は同年七月一一日に破産宣告を受け(乙六、七)、破産管財人岩本洋一は、同年八月二八日、本件建物建築請負契約を解除する旨意思表示したため、右残高のうち完成引渡時払いの出来高二五六八万六五〇〇円についても弁済期が到来した。

4  破産者倒産後の本件建物及び土地の占有状況

原告は、破産者が倒産した平成三年六月一三日以降の工事を中止し、同月中は、本件土地付近のアパートに職員を常駐させ、同年七月以降は本件建物を職員に巡回させていたが(甲三の3、4、六、証人前畠一義)、同年七月中旬ころ、本社土地の周囲にバリケードの代りに社名入りの青色トタン塀を巡らせ、入り口を一箇所設けてこれに施錠したうえ、右入り口に立入禁止の表示をなした(乙五の1)。原告は、同年九月ころ、本件建物を覆っていたメッシュシートを外し、同四年六月ころには枠組足場を撤去した(乙五の3、証人前畠一義)。

この間、同三年七月一五日ころ、破産管財人弁護士岩本洋一名で本件土地を管理している旨の看板が立てられたが(乙五の1、2)、右の後本件建物及び土地が強制競売により売却された平成七年一一月ころに至るまで、原告による本件土地の占有と破産管財人による看板表示が併存した状態が継続していた(甲八、一〇、証人前畠一義)。

5  本件宅地造成請負契約の締結と請負代金の一部弁済

原告と破産者は、平成三年二月二八日、本件宅地造成請負契約を締結し(甲五)、原告は同年五月末日ころまでに同工事の施工を完了したが、破産者は右請負代金の内金二五〇万円を支払っただけで、残額六〇四万九〇〇〇円の支払をしない(甲六、証人前畠一義)。

三  商事留置権について

1  本件商事留置権の成否

(一)  商事留置権の成立要件

(1) 商法五二一条にいう商人間の留置権は、債権者及び債務者双方にとっての商行為により発生した債権が弁済期にある場合、右債権の債権者が、双方の商行為によって債権者の占有に帰した債務者所有の物又は有価証券を、右債権の弁済を受けるまで留置することができるという権利である。

(2) 留置目的物の範囲

商事留置権の目的物の範囲に関し、商法五二一条の「物又は有価証券」に不動産は含まれないとする解釈がある。

しかしながら、請負代金が高額である請負契約の当事者間で、請負人において注文者の財産上に右請負代金債権の支払を担保するための措置を施していない場合においては、請負人は、その占有に帰した注文者所有の不動産を右請負代金債権の担保物件とする意思を有しており、事前の担保を設定せずに工事を施工させる注文者も、右請負人の意思を了解していると解するのがむしろ妥当である。さらに、現行民事執行法一九五条は留置権による競売の目的物について限定を加えておらず、商法五二一条もその文言上、留置権の目的物として不動産を排除していないことを併せ考えると、不動産も同条の商事留置権の目的物となりうると解すべきである。

(3) 占有

商事留置権も、債務の弁済を受けるまで目的物の占有を継続することによって、間接的に債権の満足を得ることができるという法定担保物権であることは民事留置権と同様であり、右にいう占有の有無は、占有の性質・態様、目的物の性状等具体的事情を総合的に考慮し、公平の見地から客観的に判断すべきである。

(二)  本件商事留置権の成否

(1) 被担保債権の成立及び弁済期の到来

本件では、原被告の双方にとって商行為である本件建物建築請負契約によって発生した請負工事残代金請求権のうち、上棟時払いの四一〇〇万円分については平成三年六月一日ころ、完成時引渡払いの一部である二五六八万六五〇〇円については同年八月二八日にそれぞれ弁済期が到来したこと、同様に双方にとって商行為である本件宅地造成請負契約によって発生した請負残代金請求権六〇四万九〇〇〇円については同年五月末日ころに弁済期が到来したことは、前記二1ないし3及び5のとおりである。

(2) 目的物が債務者の所有に属すること

破産者が、原告に対し、契約成立時払いの本件建物建築請負代金四一〇〇万円を支払っていること(前記二1)、本件建物建築工事は、平成三年六月一三日の破産者の倒産後、その進行を中止していたこと(証人前畠一義)、本件建物は、平成五年九月二八日、破産者名義の保存登記が経由されていること(乙七)からすれば、本件建物は平成三年六月一日の上棟時から破産者の所有に属していたものであり、本件土地についても平成二年一一月二日以降破産者が所有していたものというべきである(乙六)。

(3) 原告の本件建物に対する占有

本件建物に対する原告の占有が、原告と破産者の双方にとって商行為である本件建物建築請負契約の締結によるものであることは前記二1および2のとおりであり、原告は、本件建物について上棟時である同三年六月一日から同七年一一月ころまで、前記二2及び4のとおりの状況で占有していたというのであるから、原告による右占有は、商事留置権の成立要件としての占有と評価するに十分なものである。

(4) 建物建築請負契約の請負人による建物敷地の占有

建物建築請負契約の請負人がその工事に際して敷地を占有する場合、右敷地たる土地の占有は、留置権に基づく建物に対する占有の反射的効果としての間接的占有に過ぎず、請負人が留置権の行使によって担保することができる価値は自らの施行した建物の価値を標準とするのが公平の観念にも適することからすれば、右の場合における請負人の建物敷地に対する占有は、特段の事情のない限り、商事留置権の成立に必要な占有と認めるに足りないというべきである。

原告は、本件土地について平成二年一二月一七日から同七年一一月ころまで、前記二2及び4のとおり占有しているが、原告の右占有は建物建築請負人の建物敷地に対する占有に他ならず、商事留置権の成立要件としての占有とは認められない。

(5) 以上のとおりであるから、原告には、本件債権を被担保債権とする本件建物に対する商事留置権のみの成立を認めるのが相当である。

2  債務者が破産した場合における商事留置権

(一)  商事留置権の留置的効力

破産法九三条一項前段は「破産財団に属する財産の上に存する留置権にして商法によるものは破産財団に対してはこれを特別の先取特権とみなす。」と規定するが、その趣旨は、取引の安全の見地と商事留置権の担保力を尊重し、特に商事留置権を特別の先取特権とみなして担保権としての効力を持続させることにあると認められる。

同条同項前段の文言及び趣旨によれば、本件のように不動産を目的物とする商事留置権の被担保債権の債務者が破産宣告を受けた場合には、右商事留置権の目的物に対する留置的効力は失われ、破産管財人の占有に帰するものと解するのが相当である。

本件においては、債務者である破産者が平成三年七月一一日に破産宣告を受けていることは前記二3のとおりであり、宣告後破産管財人が直ちに破産者の財産管理に着手したと推認されるので、同日以後は破産管財人が本件建物を占有していたと認められる。

さらに、その後の同年八月二八日、破産管財人が破産法五九条一項に基づいて本件建物建築請負契約を解除する旨の意思表示をなしたときに、本件債権のうち完成引渡時払い分の一部である二五六八万六五〇〇円の弁済期が到来したと認めるべきことは前記1(二)のとおりであるから、右同日をもって、右本件債権の一部が本件商事留置権の被担保債権に組み入れられたと考えるべきである。

(二)  商事留置権の転化した特別の先取特権と抵当権の優劣

被告は、破産者に対し、平成二年一一月二日、本件土地購入資金として一億円を貸し付け、右貸金債権担保のために本件土地に本件抵当権を設定しており、右抵当権設定登記は同日経由されたが(乙三、六、八、一〇、証人山崎芳秋)、原告には本件土地に対する商事留置権が成立しないこと前記1(二)のとおりであり、破産法九三条一項により特別の先取特権に転化する商事留置権も本件建物に対するものに限られるから、被告の右抵当権と原告の右先取特権は競合せず、本件においてその優劣を判断する必要はない。

四  法定地上権又は使用貸借権の有無

被告が本件土地に対して抵当権を設定し、その登記を経由したことは右三2(二)のとおりであるが、原告は、本件土地に対する商事留置権が成立しないとしても、本件土地上には本件建物のために法定地上権又は使用貸借権が成立するから、右利用権価格分を原告に対する配当額に加えるべきである旨主張するので、以下、検討する。

本件において、被告は、破産者に対する一億円の貸付け及び本件土地に対する抵当権設定の際、破産者から購入した本件土地上に七階建ての分譲マンションを建築し、その分譲代金で右貸付金を返済する予定であったことを聞いていたが、マンション建築工事については破産者自身が行うものと認識していた(証人山崎芳秋)。また、右貸付け及び抵当権設定の当時、本件土地の現況は更地であって、被告はこれを前提として本件土地の担保評価を行い、一億〇六二九万円との評価結果を得て、破産者に対して右一億円の融資を実行した(乙四)というのである。

右各事実からすれば、被告は、更地としての評価に基づいて本件土地に抵当権を設定したことが明らかであるから、本件土地上に、右抵当権設定後に建築された本件建物のための法定地上権は成立しないというべきである。

また、前記三1(二)のとおり、本件建物はその上棟時から破産者の所有に属しており、本件土地についても同様に破産者の所有であったと認められるのであるから、本件建物のための本件土地に対するその他の利用権も成立しない。

さらに、本件建物を留置することの反射的効果として本件土地の明渡しを拒絶しうることは、あくまでも原告が本件建物の価値相当分の債権の満足を得るために認められる効果であり、右を超えて原告への配当額に本件土地の利用権相当分を加える理由とはならない。

五  本件配当表について

本件建物及び土地の一括最低売却価額は七二六九万円であり、その内訳は本件建物について二二八三万円、本件土地について四九八六万円であると認められるところ(乙一、二)、本件建物及び土地は右最低売却価額を上回る七二七〇万五九九九円で一括売却された。

原告には本件建物に対する商事留置権のみが認められ、破産者の破産宣告により右商事留置権が特別の先取特権へと転化することは前記三1及び2(一)のとおりであり、本件建物には原告に優先する抵当権者その他の担保権者は存しないから、原告は本件建物の売却代金から手続費用を除いた全額である〔二二八三万円+(七二七〇万五九九九円−七二六九万円)÷七二六九〇〇〇〇×二二八三〇〇〇〇−六〇万一七三七円≒〕二二二三万三二八八円について優先弁済を受けうることとなる。他方、被告が本件土地について本件抵当権を設定していることは前記三2(二)のとおりであり、本件土地について被告に優先する担保権者は存しないから、被告は本件土地の売却代金から手続費用を除いた全額である〔四九八六万円+(七二七〇万五九九九円−七二六九万円)÷七二六九〇〇〇〇×四九八六〇〇〇〇−七八万五九八八円≒〕四九〇八万四九八六円について優先弁済を受けうることとなる。

本件配当表が右と同様の考えに基づいて作成されたことは明らかであるから、本件配当表を変更すべき理由はない。

六  以上によれば、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官草野芳郎 裁判官岡田治 裁判官杜下弘記)

別紙物件目録<省略>

別紙抵当権目録<省略>

別紙配当表<省略>

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